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ツバキ [樹木]

ツバキ

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 ツバキはサザンカより世界的に知られています。分類では両者は同じ属ですが、種が異なります。よく目にするツバキはヤブツバキです。椿の名所としてよく知られているのは伊豆大島(東京都)ですが、暖地性のため暖かいところに多く見られます。しかし、北限は青森県であり、日本一であろうヤブツバキは老谷(富山県)にあります。このツバキは樹齢500年であり、幹周り3.47mの巨木で、樹勢盛んです。

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上の写真:右側の樹が大きく(樹高6.6m)、富山県指定文化財(天然記念物)になっています。下の写真は木の背面は枝で覆われて薄暗く、東西8m、南北11mの枝張りは立派です。

 さて、山茶(ツバキ)の成分に関する研究は、サザンカ(茶梅)の研究に登場した青山新次郎によって詳細に行われました。下記の薬学雑誌にドイツ語と日本語で書かれていますが、この研究はドイツの化学者であるWedekindの目に止まりました。書簡によって、青山の取り出したツバキサポニンのアグリコン部(糖を含まない部分)は、Agrostemma githago(麦仙翁、なでしこ科の植物)に含まれている非糖質のGithageninではないかと注意がありました。これを受け、青山はWedekindと同じ条件で、ツバキサポニンを酸化して酸化物の物性を調べました。しかし、ツバキサポニンのアグリコンはGithageninでないと結論に至りました。昭和初めの日本の化学者が当時化学の先進国であったドイツの化学者と対等に化学議論をしたことに、活躍の程が分かります。今のようなアメリカの化学が石油を基本としたものですが、石炭を基本とするドイツの化学が日本の科学の原点になる例を見たようです。

【文献1】 青山新次郎、薬学雑誌51, 430-434 (1931).

 一方、ツバキの油成分で一番多いのはオレイン酸です。この油はオリーブ油より3,4割多くオレイン酸を含んでいます。しかし、大量には取れないため食料としての利用は広まっていません。ツバキ油の化粧品としての利用は古くから盛んですが、上記のサポニン以外に、タンニン(サザンカと重複、下の文献2)、インドール(これは着生菌によるものとされ、植物本来のものではない。また、アントラキノン系色素も得られている。文献3)など含まれていると報じられています。

【文献2】 T. Yoshida, Y. Chou, Y. Maruyama, T. Okuda, Chem. Pharm. Bull., 38, 2681-2686 (1990).

【文献3】 糸川秀治、秋田安男、山崎幹夫、薬学雑誌93, 1251-1252 (1973).; 同雑誌、91, 505-507 (1971).

 天然に存在する化合物はなかなか純粋にして使うことはありませんが、抽出物をそのまま使うことはよくあります。ツバキの抽出物はお茶とよく似た生理活性を示すと期待され、多くの研究がされています。原文が得られたものを見てみましょう。

【文献3】 T. Taguri, T. Tanaka, I. Kouno, Biol. Pharm. Bull., 29, 2226-2235 (2006). において、
ツバキの抽出物にはカテキン、エラグタンニン、ガロタンニンなどのポリフェノールが含まれ、抗菌活性 (平均 MIC±S.D., μg/ml) ヤブツバキの場合 (783±485)を示すことを明らかにされました。ここで、MICとは活性を示す最低濃度を意味し、数値が低いほど少ない濃度で活性を示すことになり、強い活性を示すことになります。この場合、誤差(SD)は大きいですが、緑茶の492と比較して、そこそこの値を示しました。すなわち、ツバキは抗菌活性をある程度持つことを示すことが言えます。調べてみるとツバキ茶というのがあります。これは満更理由のないことではありません。

【文献4】 K. Onodera, K. Hanashiro, T. Yasumoto, Biosci. Biotechnol. Biochem., 70, 1995-1998 (2006). において、
ケルセチン配糖体が強い抗酸化性を示すことを明らかにしました。その活性はEC50で示されますが、薬物や抗体などが最低値からの最大反応の50%を示す濃度を表し、数字が小さいほど少しの量で生理活性を示す一般的な効果濃度を意味します。ツバキの葉から取り出されたカメリアノシド(EC50=25.8 μM)はよく知られているアスコルビン酸(EC50=50.7 μM)より抗酸化活性が強いことを示しました。なお、類似の化合物に、ルチン(蕎麦に含まれる)やケルセチン(ドクダミに含まれる)がありますが、いずれもカメリアノシドと近い値を示します。

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【文献5】 M. Yoshikawa, T. Morikawa, Y. Asao, E. Fujiwara, S. Nakamura, H. Matsuda, Chem. Pharm Bull., 55, 606-612 (2007). において、
ツバキの花の抽出物には配糖体であるCamelliosidesを含み、マウスを使った実験であるが、胃粘膜の障害を抑える役割を持つことを明らかにしました。
つまり、ツバキは油だけでなく、葉や花のところも、生理作用があることが明らかにされました。

 これからの季節に悩まされるのは花粉のアレルギーです。アレルギーはアレルギーを起こす物質すなわちアレルゲン(抗原)と抗体との反応で開始されます。複雑なリン酸化酵素のカスケード(階段式連鎖)の後、肥満細胞顆粒化やサイトカイン生成などを経て症状、例えばヒスタミンの生成で痒さを示すこと、が現れます。Leeらはツバキの葉の抽出物が、顆粒化やサイトカイン生成を抑制すると報じています。作用機序では、Srcの仲間(カスケード初期の伝達蛋白質)であるリン酸化酵素を阻害する事によって、抗アレルギーを示すことを明らかにしました。この論文では、どのようなツバキ成分がこのような効果を示すかは明らかでありません。扱われたツバキ葉抽出物という混合物の場合、化合物間の相乗効果が働く場合があり、機構的には複雑になりそうです。しかし、結果的に効果があれば、著者らも述べているように、アレルギー症状を抑制すると言う意味で期待できます。
【文献6】 J-H. Lee, J-W. Kim, N-Y. Ko, S-H. Mun, D-K. Kim, J-D. Kim, H-S. Kimw, K-R. Leez, Y-K. Kim, M. Radingerz, E. Her, W-S. Choi, Clin. Exp. Allergy, 38, 794-804 (2008).

山茶花(サザンカ) [樹木]

山茶花(サザンカ)

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 「サザンカ」と聞けば何を想像しますか?理想、謙虚の花言葉や温泉、高原、俳優などなどありますが、サザンカ梅雨のように秋から冬への季節の変わり目を表す季節でもあります。サザンカは樹木としては、椿、茶と同じツバキ科に属する植物です。生物の分類というのは良く出てくるので憶えておくと便利です。界・門・綱・目・科・属・種 (記憶のために[開門を乞うことを目する家族の主])です。サザンカの分類では、界:Plantae(植物界), 門:Magnoliophyta(被子植物門), 綱:Magnoliopsida(双子葉植物綱), 目:Theales(ツバキ目), 科:Theaceae(ツバキ科), 属:Camellia(ツバキ属), 種:Camellia sasanqua(サザンカ)というのが分類ですが、サザンカの学名はCamellia sasanquaです。ツバキ科の植物はお互いによく似た花をつけますが、ツバキは額毎落ちますのに対して、サザンカは花弁毎に、桜のように、散ります。一見すると、ツバキとサザンカは区別することは難しいけれども、もし花が散るとき落花状態を見ると上記のように判断できます。ツバキ科植物は元々熱帯や亜熱帯の植物ですが、淡い赤の混ざった白い花のサザンカは原種に近く、日本の南が生育北限です。しかし、よく目にするサザンカはほとんど園芸種で3つの群に分けることができます。サザンカ群、カンツバキ群、ハルサザンカ群です。

冬に花が咲く植物は受粉に関係がないのでしょうか?その季節に昆虫や鳥が花を求めて来る確率は大変低いと考えられます。自家和合というのがサザンカにはあるのでしょうか?

 さて、サザンカに含まれる化合物の研究は19世紀後半からありました。しかし、構造研究で有名なのは青山新次郎の研究です。80年も前に(1930年)、青山は宮崎県から種子を取り寄せ、化合物の単離を行い、下記の薬学雑誌に発表しました。その化合物は、ツバキ科の植物に共通していて、構造はサポニンです。一般に、多くのサポニンはトリテルペンの配糖体(トリテルペン+糖)であり、脂溶性と水溶性の構造を持つため、洗剤の役目もする。通常、植物の果皮には構造が少し違ったものが混合しているため分離精製するのは難題です。化学実験操作法が余り発達していなかった当時に、青山は精力的に単離精製を行って、構造解明し、ドイツの化学者の論文の正誤をハッキリとさせています。真理の前に堂々と信念と精力的な実験、洞察力を披露した姿は、現在の化学・薬学界の範とするところがあります。それでは、偉大な化学者の仕事ぶりを遡行しましょう。
 その前に、論文にも書かれていることですが、サザンカは「茶梅」と書き、ツバキである「山茶」と区別しています。すなわち、「山茶」の花はサザンカではありません。「山茶」の花は椿の花ですから「山茶花」は「サザンカ」と表現する方が間違えありません。

【論文1】 青山新次郎、薬学雑誌30, 454-461 (1930).

言葉の使い方
山茶花の漢字は「サンサカ」の訛りに由来するとされますが(Wikipediaより)、暖地性の山茶(ツバキ)に由来します。青山も論文でサザンカをサザンクワと言い、”sasanqua” に対応する片仮名を用いています。当時の言葉の使い方は、忠実に外国語の’qua’を’クワ’表現して対応をとろうとしていることが知れます。

 元に戻って、この論文の薬学雑誌を詳細に読むと、サザンクワサポニンはサポゲニン(配糖体の糖部分がない脂溶性成分、またはアグリコン)と[3分子のガラクトース+アラビノース]からなる構造を提案しています。当時の実験環境から想像してみると、単離・精製に多大な労力が使われ、精密な元素分析が構造推定の重要な手段となっていました。これらの業績を一つずつトレースすると、論理的説明に研究者の姿勢が思い浮かびます。

 このような青山の研究は40年後に山田哲也・青木博夫・並木満夫によって発展させられました。彼らはクロマトグラフィーを用いた単離精製を行い、サポゲニンの構造研究を行いましたが、構造を決定するには至っていませんでした。
【文献2】 山田哲也、青木博夫、並木満夫、日本農芸化学会誌44, 580-586 (1970).

 同じグループの研究者が1968年にオイゲノール配糖体として論文を出し、Sasanguinの構造とした研究もあります。
【文献3】 T. Yamada, H. Aoki, T. Tamura, Y. Sakamoto, Agr. Biol. Chem., 31, 85-91 (1967).

 さらに、T. Yoshida, Y. Chou, Y. Maruyama, T. Okudaは花の実について、お茶のタンニンと山茶花のタンニンを比較して、両者に類似のガロタンニン(重合性の没食子酸の配糖体)が含まれていることを明らかにしました。
【文献4】 T. Yoshida, Y. Chou, Y. Maruyama, T. Okuda, Chem. Pharm. Bull., 38, 2681-2686 (1990).

 また、1997年に、T. Akihisa, K. Yasukawa, Y. Kimura, S. Takase, S. Yamanouchi, T. Tamuraは、加水分解されない脂質として、27種類を単離しました。サザンカの脂質成分の分布は、ツバキ科に共通したところもありますが、サザンカの主成分がButyrospermol(16.9%), Tirucallol(22.4%), β-Amyrin(24.6%)であることを示しました。これらの化合物は炭素数30の原子骨格をもつトリテルペンであることも明らかになりました。さらに、これらの化合物は、マウスの耳を使った実験結果から、抗炎症作用があることも得ています。
【文献5】 T. Akihisa, K. Yasukawa, Y. Kimura, S. Takase, S. Yamanouchi, T. Tamura, Chem. Pharm. Bull., 45, 2016-2023 (1997).

 同じグループの研究で、サザンカに3環性のトリテルペンであるIsohelianolを単離、構造決定したことも報じられています。この化合物は以前に分かっている4環性のトリテルペンとは異なり新規なものでした。この構造決定にはNMR(核磁気共鳴)のHMBC(異種核相関)の技術が駆使され構造決定謎解きのストーリーがあります。
【文献6】 T. Akihisa, Y. Kimura, K. Koike, T. Shibata, Z. Yoshida, T. Nikaido, T. Tamura, J. Nat. Prod., 61, 409-412 (1998).
【文献7】 T. Akihisa, K. Yasukawa, Y. Kimura, S. Yamanouchi, T. Tamura, Phytochemistry, 48, 301-305 (1998).
【文献8】 T. Akihisa, K. Arai, Y. Kimura, K. Koike, W. C. M. C. Kokke, T. Shibata, T. Nikaido, J. Nat. Prod., 62, 265-268 (1999).
【文献9】 T. Akihisa, K. Koike, Y. Kimura, N. Sashida, T. Matsumoto, M. Ukiya, T. Nikaido, Lipids, 34, 1151-1157 (1999).

 最近、H-P. Chen, M. He, Q-R. Huang, D. Liu, M. Huangはサザンカサポニンに酸化的ストレス防御作用があることを示しました。文献調べてわかったことに、最近のサザンカ研究は中国において盛んに行われています。思うに、サザンカは漢方薬にも使われていることに関係していることも理由かも知れません。また、構造研究の先にある生理活性の研究が中心となっています。
【文献10】 H-P. Chen, M. He, Q-R. Huang, D. Liu, M. Huang, Eur. J. Pharmacol., 575, 21-27 (2007).
【文献11】 Z. Liao, D. Yin, W. Wang, G. Zeng, D. Liu H. Chen, Q. Huang, M. He, Phytother. Res., 23, 1146-1153 (2009).

エピローグ
 サザンカの実はと類縁のツバキの実と似ています。サザンカ油を調べたところ、純粋なサザンカ油は見当たらず、ほとんどがツバキ油との混合物であったり、ツバキ油そのものであったりします。それではツバキ油を見てみましょう。ツバキの実には油が多く、昔から椿油として、頭髪の整髪料として使われていることは知られています。椿油は単にトリグリセリド(脂肪酸にはオレイン酸が多い)だけと思われますが、少量含まれているサポニンやタンニンがあり、これらの成分にはあまり注目されてきません。改めて、植物の油脂成分の多様性を知ると、古から用いられてきた椿油の意義を再考し、新しい利用法もありそうです。(椿油は食用ともなります)
個人的には、どんな整髪料よりも椿油は髪の艶、しっとり感など優れていますので、使うことがあります。ただ、油の粘りがあるためさらさら感は望めません。
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ナンテン [樹木]

ナンテン(南天)

寒い時期に、赤い実が目立つ低木がナンテンです。ナンテンの生産量が日本一の都道府県は岐阜県と知りませんでした。先日、ドライブの時に見かけた赤い実のなる場所を思い出しました。確か、郡上八幡あたりの西斜面に赤い実のなっているのを見かけたようなので、行ってみることにしました。国道156号線を長良川鉄道に沿って北上すると、山々の茶色く紅葉した中に、真っ赤なモミジも見られ、風景の良いところでした。郡上八幡の手前の左側を注意していると、山麓にナンテンらしきところが見えてきました。

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さて、ナンテンは「難転」といって、日本人の縁起を担ぐ性格と自然苦から回避したい気持ちの現われとして、文化を感じます。ただ、情感以外に、日本人はこの植物をうまく使っていますので、逞しいものをもっています。例えば、ナンテンといえば「ナンテンのど飴」を思い出します。その効用は喉の筋肉を弛緩することで咳を止めることです。また、ナンテンは実だけでなく、葉も薬に用います。赤飯にナンテンを添えます。

植物として、ナンテンの世界的な分布は、インド、中国から日本にかけて広まっています。日本では東海道、近畿以南の暖地に自生しています。ただ、圧倒的に多いのは庭木です。

さて、ナンテンについての化学的な研究は、日本人を中心とする薬学者によって行われました。ナンテンにはアルカロイド(天然に窒素を含む化合物であるが、もともとアルカリ性の性質を持つため酸性にして水に溶かしアルカリ性に戻して結晶が取り出されることから命名された分類です)が含まれています。

ここで、研究の歴史をみてみましょう。現在、手に入る古い文献として、1925年の薬学雑誌があります。その文献に、北里善次郎はナンテン成分を報告しています。その中に書かれている内容を読みますと、ナンテンの研究の原点は、J.F.Eykmann(英語表記ではEijkmanとなっている)が来日した折に、ナンテンの有毒成分の研究を行ったことに始まると書かれています。すなわち、Eykmannは1884年にその構造がアルカロイドであることを報告し、「ナンニン」(Nandinin、ドイツ語で英語はNandinine、当時はdiをヂと書き、ziをジとして区別していました)と命名しました。この命名は、ナンテンの学名であるNandina domesticaに由来するものです。

北里善次郎について 北里柴三郎の次男 (1897‐1978) 昭和時代の化学者であった。1929年北里研究所に入り、1950年所長に就任。ムクロジに含まれるサポゲニンの構造を研究し、1938年学士院東宮御成婚記念賞を受賞しました。

【文献1】 J. F. Eijkman, Ber. Zentralblatt, 779-780 (1884). この文献は利用できず、J. Chem. Soc., Abstr. 48, 565-6 1885にあるとされています。また、北里によると原著はBer, 441 (1884)であると記されています。

しかし、Eykmannの論文では、アルカロイドであるというだけでした。共存する既知のベルベリンから類推して、それはヒドロベルベリンと想像しています。つまりこの論文では、はっきりとした化学構造式は書かれておらず曖昧模糊としていました。1910年に岩川克輝はナンテンの樹皮からナンヂニンを単離して、生理活性を調べたと報告しました。
【文献2】 岩川克輝、東京医学雑誌24, (30), 15 (1910).

ところが、1925年に北里善次郎は岩川の単離したものより高融点のアルカロイドを単離し、構造式を下記のように決定しました。
【文献3】 北里善次郎、薬学雑誌、(522), 695 (1925). (註: (522)の記載について、当時は巻数がなく号のみでした)
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当時、現在のように機器分析が発達しない中、物質の精製・単離と元素分析、定性反応、既知の文献比較などを根拠に構造を提案していたわけです。その構造が現在でも間違いないというのは驚くべきことです。

話はこれで解決したように思われたのですが、北里の研究がナンテンに含まれる化合物構造研究の始まりだと当時の人は誰も想像できませんでした。詳しい続きがあります。

その後、高瀬豊吉と大橋秀治は南天実からNanteninを取り出したことを報告しました。その構造は下記のようでした。
【文献4】 高瀬豊吉、大橋秀治、薬学雑誌、(535), 742-748 (1926).
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また、間庭秀夫、榮 龍榮之、観 一郎は白南天からDomestinを単離し、Nandininとは異なることを示しました。
【文献5】 間庭秀夫、榮 龍榮之、観 一郎、薬学雑誌、(536), 833-842 (1926).
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このとき、学会誌の編集委員長は朝比奈泰彦先生(1881‐1975)でしたが、上記の間庭の論文の編集に当たり、北里善次郎に、化合物名などを統一するため、論文投稿段階で内密に見せた。(このことは論文(文献6)に記されています) これを受け北里善次郎は、Nandininを単離したときに、Nanteninに相当するDomesticin methyletherを単離していたことを述べています。また、それがNanteninと一致することを述べました。さらに、間庭らのDomestinも同じDomesticin methyletherであるが、DomestinとDomesticinは混乱する名前なので、Domestinを使わないことを提案しています。結局、3つの研究グループが同じ化合物を単離し、それはDomesticin methylether (= Nantenin)であると決められました。理由は、元素分析、融点、旋光度測定の結果が一致したことに基づいていました。
【文献6】 北里善次郎、薬学雑誌、(536), 843-844 (1926).


当時はドイツ語が中心であったため、化合物名がNanteninのように、最後に e を略すが、現在のように英語が国際語となっているので、Nantenineのように書きます。ただ、ここでは、原文に合わせてドイツ語で表し、歴史を味わってもらえるようにしました。

その後、Plouvierは、ナンテンには青酸がシアノヒドリンから発生すると報告しましたが、量的には極めて少ないことも明らかになりました。このことは抗菌性と関連し、食物にナンテンの葉を添えたり、ナンテンの箸を利用したりする理由の一つとなっています。
【文献7】 V.Plouvier, Bull. Sci. Pharmacol., 49, 150-152 (1942).

また、T. Ohtaはナンテン実からProtopineと酷似した化合物を取り出しました。
【文献8】 T. Ohta, Yakugaku Zasshi, 69, 502-503 (1949).

ナンテンの種から油脂を抽出したとの報告もあります。主として飽和脂肪酸とリノール酸、少量のオレイン酸からなります。
【文献9】 S. Ueno, S. Matsuda, T. Kimura, J. Nippon Oil Technol. Soc., 2, 43-47 (1949); T. Ohta, T. Miyazaki, Yakugaku Zasshi, 71 769-771 (1951).

H. Chikamatsu, M. Tomita, M. Kotakeは新しくIsoboldineを単離しました。
【文献10】 H. Chikamatsu, M. Tomita, M. Kotake, Nippon Kagaku Zasshi, 82, 1708-1712 (1961).
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同様な化合物であるIsocorydine(Isoboldineのメトキシエーテル体)を単離したという報告は、後に国友、森本、田中、早田によってなされています。この論文には歴史的な構造決定経過がレビューされています。
【文献11】 国友順一、森本恵子、田中成子、早田サヨ子、薬学雑誌92, 207-209 (1972).

機器分析の発展は天然有機化合物の構造決定に多大な寄与をしてきましたが、ナンテンにおいては機器分析を用いる国友らの報告で明らかにされました。その機器の一つがGC-MSです。それに対して、大量の試料から再結晶によって純粋な物質を得、融点、既知物質との混融、旋光度測定する従来の方法は、高性能ガスクロマトグラフィーと質量分析の連結した新手法に置き換えられます。このような構造決定の時代変化に対して、「飛び道具を用いるとは卑怯である」という老大家の発言は、なるほど、というところがあります。新旧の手法の違いに、人それぞれ受け取り方が異なります。スピーディーな構造決定をする新手法派と量を問題とする現物主義派はお互いに特色と欠点を有しています。個々の取り扱いに応じてどちらが良いか、対応しなければなりませんが、化学、生化学のあり方を見直す機会にもなります。

最近の論文より、ナンテン抽出物の生理学的研究は抗黴作用、気管収縮筋の防止についてそれぞれ行われました。前者の意義深い点は、多くの抗菌作用を示す物質は必ずしも抗黴作用には効果が少ないといわれている中で有効性を示された点にあります。後者は「のど飴」の理由を明らかにした実験です。
【文献12】 V. K. Bajpai, J. I. Yoon, S. C. Kang, Appl. Microbiol. Biotechnol., 83, 1127–1133 (2009) ; M. Tsukiyama, et al., Biol. Pharm. Bull. 30, 2063—2068 (2007).

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(091204改稿)

柿の蔕(へた) [樹木]

富有柿の糸貫

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岐阜県瑞穂市居倉~糸貫(いとぬき)は富有柿(ふゆうがき)の日本の原産地です。この頃、道端には沢山の店が並び富有柿の販売をしています。富有柿の名前は各地で使われていますが、ここ居倉が発祥の地であることは余り知られていません。謂れについて、下記の調査が岐阜県から発行されています。それをご参照ください。
http://www.pref.gifu.lg.jp/pref/s11423/fukurokakeyurai.pdf

富有柿は11月半ばから出荷される柿ですが、すでに早生が出ています。糸貫の柿の生育については、揖斐川(いびがわ)の水と上流から運ばれてくる栄養分が土地(粘質)にしみこんでいることが大切な環境条件となっています。同じ地域でももう少し下流の瑞穂(みずほ)市中心の産物とは味が違うと聞きました。もちろん、味だけでなく、値段も異なります。

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柿には甘柿、半甘柿、渋柿がありますが、富有柿は初めから甘い甘柿に属します。柿は水溶性のポリフェノール配糖体を含み渋くなりますが、フェノールの重合によって不溶化すると、遊離した糖が蓄積して甘くなります。特に渋柿を甘くするにはこの分解と重合を進める訳ですが、寒風に晒して乾燥と分解、重合をします。この作用は漆の重合によって漆器製作するのと似たところがあります。どちらも、いにしえからの伝統知になるわけです。

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柿の蔕(へた)はシャックリを止める漢方薬です。また、蔕の服用は血圧を下げるとも書かれていますが、ポリフェノールやタンニンの効用によるものでしょう。このような柿の効用の研究は東洋人が多く行っています。

【追記091103】
柿の実には多くの糖が含まれますが、それ以外に、葉まで含めて、オレアノール酸、ウルソール酸、ベツリン酸などのトリテルペンが含まれています。
トリテルペンというのは炭素原子数30で炭素数5のイソプレンの骨格を部分的に6単位を有する化合物です。多くの植物がその生育のために産生する有機化合物です。あるときには昆虫に食べられないため、他の植物が育たないため、昆虫に花粉を運ばすためなど、植物の武器になったりします。

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これらの成分は種々の薬効を示すことが知られています。製品として、柿の葉のお茶や柿蔕の漢方薬などが良く知られています。

・池田らによって柿の甘渋の遺伝研究があります。甘柿と渋柿の見分け方になります。
池田、山田、栗原、西田、園学雑54, 39-45 (1985). 日本語

・タバコ葉につく幼虫の摂食作用阻害をこれらの酸が示すことの報告もあります。一般化はされていませんので、どの虫に効くかはこれだけではわかりません。
U. V. Mallavadhani, A. Mahapatra, S. S. Raja, C. Manjula, J. Agric. Food Chem., 51, 1952-1955 (2003).

・また、これらのトリテルペンがチロシンのリン酸化を阻害することが明らかにされました。美白などの化粧品への応用に興味がもたれています。
P. T. Thuong, C. H. Lee, T. T. Dao, P. H. Nguyen, W. G. Kim, S. J. Lee, W. K. Oh, J. Nat. Prod., 71, 1775–1778 (2008).

・さらに、インスリンの分泌を促進する作用があることが動物実験で示されました。糖尿病に効くかどうかは不明ですが、更なる研究が待たれるところです。
T. Teodoro, L. Zhang, T. Alexander, J. Yue, M. Vranic, A. Volchuk, FEBS Lett. 582 1375–1380 (2008).

・血管の恒常性維持に有効に働く報告もあります。この論文では高血圧の正常化に働く可能性を示唆しています。
J. Martı´nez-Gonza´ lez, R. Rodrı´guez-Rodrı´guez, M. Gonza´ lez-Dı´ez, C. Rodrı´guez, M. Dolores Herrera, V. Ruiz-Gutierrez, L. Badimon, J. Nutr., 138, 443–448, (2008).

・抗掻痒剤としての利用も考えられる報告もあります。ジフェンドラミンとの比較がありますが、それを凌駕するものではありません。
H. Matsuda, Y. Dai, Y. Ido, T. Murakami, H. Matsuda, M. Yoshikawa, M. Kubo, Biol. Pharm. Bull., 21, 1231-1233 (1998).

その他、溶血作用阻害、すなわち、止血作用の報告もあります。

これらの化学研究の原点を調べますと、伊勢田駿と柳下一愛が1955年に薬学雑誌(75,230-231)に報告しています。後に、水野瑞夫先生によって、1971年に同じく薬学雑誌に構造が検討されています。(91, 905-906).当時、水野先生は岐阜薬科大学の先生で、地元の富有柿をテーマにご研究されたことのようです。両論文とも日本語です。
つまり、柿に対する日本人の研究は世界的にも独自性を持っていました。

柿を食べると、「法隆寺の鐘」と条件反射する傍ら、調査する中で、日本人の研究者が伝統を先端化学へと導いた足跡を味わうこともできました。一般に、「柿が赤くなると医者が青くなる」という講釈をつけることがあります。しかし柿を食べる意味はもっと深いところにありそうです。近頃、これらのトリテルペンがガン細胞のアポトーシスを増長するが、正常細胞には働かないというWEBもあります。すなわち、ガン細胞は破壊するが正常細胞は壊れないという意味です。(この記述はWEBだけで文献を手にすることができませんでした) なお、最近の研究論文を見てみますと、中国のものが多く、盛んですが、中国語で書かれた文献が多く、英語論文のように国際的に認知される報告であれば、広く認知されると思われます。この点、残念と言わざるを得ません。嘗て、日本語で書かれた立派な研究を見てきましたが、世界では陽の目を見ないことを経験してきました。前轍を踏むことだけをさけることはできないだろうかと思っています。
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キンモクセイ [樹木]

金木犀(キンモクセイ)

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金木犀の匂いが遠くからも匂う頃になりました。前庭の高さ2mを越える木にも黄色い花が見えます。よく見ると、日のよく当たる南側より北か西の部分の方で、沢山の花が見られます。花の香気成分が紫外線によって壊れるため、直射日光の少ない部分に花が見られるではないかと想像したくなります。(実際、日の当たる側の木の内側(樹芯近く)に花は沢山あります)

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ところで、文献を調べますと、金木犀(Osmanthus fragrans)の香気成分の研究は1966年に宍戸圭一先生(当時京都大学教授)によってなされた報告が最初でした。以降、日本人、中国人の研究が多く見受けられます。
香気成分は花期によって異なります。咲き始めの成分と少し後の成分と比較して変遷を見ますと、

5,6,7,7-Tetrahydro-4,4,7-trimethyl-2(4H)-benzofuranone 29.7% →  0.9%
9,12,15-Octadecatrienoic acid                 14.5% →  16.9%
α-Ionone                               11.7% →   3.3%
Hexadecanoic acid                         9.6% →  12.6%
γ-Decalactone                            6.8% → 8.1%
β-Ionone                                6.0% →  19.5% (匂いは似ている)

ですが、匂う成分の多くを見ますと、リナロールオキシドは少なくなり、β-Iononeの量が多くなります。金木犀の匂いが日が経つと変わるという嗅覚的判別は、ひょっとすると東洋人の独特の感覚なのかもしれません。因みに、キンモクセイの匂いの変化のレポートは中国人のグループによってなされました。
Li-mei Wang, et al., Food Chem., 114, 233–236 (2009).

このような香りは当然、蝶などの昆虫によって察知されると思われます。ハナアブがこの花にやってきました。

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この時期に飛んでいるモンシロチョウはこの香りから遠ざかります。すなわち、香りには忌避物質のγ-Decalactoneが入っています。ちょうど、モンシロチョウがやってきました。10m以上離れた花には止まりましたが、急いで金木犀の臭いで逃げてしまいました。この研究は日本人によってなされました。
H. Omura, K. Honda, and N. Hayashi, J. Chem. Ecol., 26, 655-666 (2000).

金木犀の香気成分には、抗酸化能があるという報告があります。成分の試験に使われるDPPH(ラジカル)はラジカルを消費します。活性酸素の多くはラジカルですから、活性酸素の代用となるDPPHの青色の消失で、抗酸化能がわかるわけです。また、ラットを使った実験から、香気成分は神経の酸化に対する防御に有効であると示されました。
結局、金木犀は良い香りは匂いだけでなく、活性酸素の消去能力ももっている、と示されました。この意味では化粧品などにβ-Iononeのような芳香剤が入っていますが、芳香以外に、抗酸化剤の意味があるとは驚きです。
Hsin-Hsueh Lee, et. al., J. Biomed. Sci., 14, 819-827 (2007).

香気成分の化合物は不斉炭素をもっていることが多くあります。不斉というのは化合物が手のように、左右重ね合わすことができない配置をとることを意味します。お互いにエナンチオマーといいますが、匂いの分子を分析しますと、金木犀のリナロールの場合、右手系エナンチオマー(R体)が左手系エナンチオマー(S体)より99.9%多いと示されまた。同様に、(R)-(+)-α-ionone と (R)-(+)-γ-decalactone も99.9と93.1%とそれぞれの右手系が多く見つかります。極端な言い方をすると、金木犀の匂い分子は右手利きであることになります。自然は左右対称というわけではなく、どちらか一方になるのですね。不思議です。
S. Tamogami, K. Awano, M. Amaike, Y. Takagi, T. Kitahara, Flavour Fragr. J., 19, 1–5 (2004).

【追記091014】
長野県の妻籠にンモクセイの古木があります。県の天然記念物です。人通りの多い宿場街を山側へ80m登った左手にあります。訪れる人は少ないので、見つけるのに苦労するかも知れません。ンモクセイは日本には自生のものが少ないと書かれています。樹周1.91m、高さ8mの古木ですが、樹勢は良く、枝を張っているので見掛けは大きく見えます。今の時期どんな匂いがするか訪れたいものです。(追記091015に続く)

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【追記091015】
昨日、妻籠宿のギンモクセイが咲いているか確かめに行きました。花はほとんど終わっていたがほんの少し残っていました。観光案内所の方に伺った所、今年は近くの金木犀と同時にギンモクセイは開花しましたが、それも上部と下部だけでした。真ん中の部分は咲かず終いでした。匂いは爽やかですが、今年は金木犀の匂いが勝ち、嗅ぎ分けることが難しいほどでした。また、金木犀の方は一度終わった後にまた咲き出し、今は二回目の開花が見られます。今年は異常気象なのでしょうか、とのことでした。(光徳寺の枝垂れ桜の歴史は別掲)

http://kz--t5.blog.so-net.ne.jp/2009-10-16

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イチョウ [樹木]

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上日寺(氷見)国指定天然記念物(雌株)

春は桜で忙しい、秋は紅葉で忙しい。 樹木を見るにはふさわしい時候がある。


桜は午前、イチョウは午後、それぞれ一番美しい時刻と思っています。
例えばイチョウについて、

「金色の小さな鳥の形してイチョウ散るなり夕日の丘に」

といわれるように、はらはらと落ちるイチョウの葉が夕日に染まりながら落葉する姿を、小学校教科書に出ている与謝野晶子の句は表しています。イチョウには晩秋の夕刻、晴れた日でやはり夕日がふさわしい。

情感はともかくとして、イチョウは不思議な木です。先ず、葉が変わった形をしています。似た形にアヒルの足跡、三味線のバチ、など言われますが、中には実を纏った葉もあります。木全体としても内枝が張って木登りには向いていない形をしています。日が当たりすぎると、葉は枝の途中から直接出てきます。枝を張る必要がないとイチョウが思うためでしょうか。

また、イチョウは雌雄異株で、街路樹に使われるほど、結構丈夫な木です。さらに、刈り込んでも大丈夫ということで管理がし易いことのためでしょう。ただ、雌株は、秋には銀杏の臭いと忌避されるので、雄株が好まれますが、苗の段階で雌雄が分かるはずがないので、雄株を接木するのが一般です。

どのイチョウを見ても皆同じものばかりと気がつきます。太古には17種類あったのですが(化石から)、現存は1種類で属を占めます。つまり生き残り1種です。原産地は中国であり、日本に現存するものは中国から波及したことになります。例えば、日本へ白鳳時代に伝わったと上日寺に書かれているイチョウは1200年前ごろになりかなり古いものです。万が一、樹齢2000年というものがあればそれはおかしなことになります。

さて、木の幹を見てみましょう。気根は円錐状に樹皮に垂れ下がっています。これは若い木にはありません。木の枝の張り具合を見てみますと雌株の方が大きく、雄株の方は背が高く伸びます。日本には雄株が多くあります。特に青森県にはイチョウの樹齢1000年の古木が多く見られます。

イチョウの化学成分は天然有機化学の対象となり、日本人が構造決定した歴史があります。イチョウの葉にはGinkgolic AcidやGinkgolideの化合物が含まれています。その構造式をそれぞれ下に示します。

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イチョウには虫が付かないので、すくすく育つように見えます。しかし、ニセビロウドカミキリのような虫はイチョウを食べる悪食です。なぜ耐性を獲得したのか未だに分かりません。不思議なものです。
カミキリ図鑑:
http://www2.gol.com/users/nanacorp/ZUKAN/0kensaku-menu.htm

イチョウの葉のお茶は健康食品として市販されています。海草を研究しておられる、ある先生がイチョウに興味をもたれ、イチョウ茶を飲むと夜中に目を覚まさずに熟睡できると話をされていました。あるとき、ふとテレビを見ているとその先生が出ておられ、その効用とイチョウについて色々と語っておられました。研究者というのは少し畑が違っていてもよく研究されるものだと感心させられました。
また、血小板活性化因子(PAFという)は傷をすると止血のときにPAFが働き血小板が凝固する。逆にこの作用が大きいと血栓を起こすので、血液凝固を阻害物質が必要となります。そこで、イチョウエキスは血液凝固防止に有効に働くという実験は何報もあります。つまり、よく研究されています。酒飲みが最後に銀杏の焙烙焼きを食べることが食習慣としてありますが、意味のあることと思われます。また、アルツハイマー症の軽減化にも働くという研究論文もかなりあります。

しかし、良いことばかりではありません。イチョウ抽出物はビタミンB6(VB6)を破壊します。このためVB6の不足による障害も報告されています。さらに、イチョウ茶を大量に取ると溶血作用があるため、安全基準として5ppm以下に設定されています。

面白いことに、銀杏のあの悪臭は酪酸とヘプタン酸によることがわかっていますが、人だけでなく、サル、タヌキは忌避します。ところが、アライグマはそれを示しません。何とも不思議なことです。

成分構造式を見ると、化学的関連したことがあります。Ginkgolic Acidはイチョウだけでなく、漆やカシューにもそれと近いまたはそのものが含まれています。銀杏に被れる人は漆やカシュー油に被れる確率が高いと思われます。でも漆に被れても、銀杏やカシューナッツは食べても大丈夫だという人を複数知っています。化学構造が同じや近いからといっても、必ずしも被れるとは限りません。しかし、短絡的な結論を言えませんが、一つのアレルギーを持っている人は気をつけた方が良いでしょう。化学構造に戻ると、一連の化合物はアナカルド酸(サリチル酸誘導体)を含むことで知られています。このアナカルド酸は抗菌作用が強く、例えば、MRSAやVREのいわゆる耐性菌に対しても抗菌作用を示します。不思議なことに抗菌作用と並行して、抗酸化作用を示します。すなわち、チロシナーゼやリポキシゲナーゼなどの酸化酵素の阻害剤になります。表面的には化粧品としての展開が期待されますが、アレルギー症状が出る可能性があります。

イチョウの天然物化合物研究は、Ginkgolideの構造決定で文化勲章受章者の中西香爾教授を挙げることができます。この構造は加水分解を非常に受けにくく、ラクトン(環状エステル)を3つ含む構造と決定されています。先生がイチョウの研究を始められたのは東北大学の建物の横にあったイチョウの木が伐採されたものを研究室に持ち込み抽出、単離、構造決定されたと聞きました。最近先生が書かれた書物に構造決定と生理作用について書かれたものがあり、その別刷りにサインをもらいました。(私の趣味)

上日寺のイチョウ
http://www.jaist.ac.jp/ms/labs/ttl/KT/shashin/tennenkinenbutu/jounichiji/jounichiji.html

飛騨国分寺はフォトをご覧になれます。
http://pht.so-net.ne.jp/photo/usuzumi/albums/165323
http://www.jaist.ac.jp/ms/labs/ttl/KT/shashin/tennenkinenbutu/kokubunji/kokubunji.html

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