SSブログ

山茶花(サザンカ) [樹木]

山茶花(サザンカ)

3429252_large.jpg

 「サザンカ」と聞けば何を想像しますか?理想、謙虚の花言葉や温泉、高原、俳優などなどありますが、サザンカ梅雨のように秋から冬への季節の変わり目を表す季節でもあります。サザンカは樹木としては、椿、茶と同じツバキ科に属する植物です。生物の分類というのは良く出てくるので憶えておくと便利です。界・門・綱・目・科・属・種 (記憶のために[開門を乞うことを目する家族の主])です。サザンカの分類では、界:Plantae(植物界), 門:Magnoliophyta(被子植物門), 綱:Magnoliopsida(双子葉植物綱), 目:Theales(ツバキ目), 科:Theaceae(ツバキ科), 属:Camellia(ツバキ属), 種:Camellia sasanqua(サザンカ)というのが分類ですが、サザンカの学名はCamellia sasanquaです。ツバキ科の植物はお互いによく似た花をつけますが、ツバキは額毎落ちますのに対して、サザンカは花弁毎に、桜のように、散ります。一見すると、ツバキとサザンカは区別することは難しいけれども、もし花が散るとき落花状態を見ると上記のように判断できます。ツバキ科植物は元々熱帯や亜熱帯の植物ですが、淡い赤の混ざった白い花のサザンカは原種に近く、日本の南が生育北限です。しかし、よく目にするサザンカはほとんど園芸種で3つの群に分けることができます。サザンカ群、カンツバキ群、ハルサザンカ群です。

冬に花が咲く植物は受粉に関係がないのでしょうか?その季節に昆虫や鳥が花を求めて来る確率は大変低いと考えられます。自家和合というのがサザンカにはあるのでしょうか?

 さて、サザンカに含まれる化合物の研究は19世紀後半からありました。しかし、構造研究で有名なのは青山新次郎の研究です。80年も前に(1930年)、青山は宮崎県から種子を取り寄せ、化合物の単離を行い、下記の薬学雑誌に発表しました。その化合物は、ツバキ科の植物に共通していて、構造はサポニンです。一般に、多くのサポニンはトリテルペンの配糖体(トリテルペン+糖)であり、脂溶性と水溶性の構造を持つため、洗剤の役目もする。通常、植物の果皮には構造が少し違ったものが混合しているため分離精製するのは難題です。化学実験操作法が余り発達していなかった当時に、青山は精力的に単離精製を行って、構造解明し、ドイツの化学者の論文の正誤をハッキリとさせています。真理の前に堂々と信念と精力的な実験、洞察力を披露した姿は、現在の化学・薬学界の範とするところがあります。それでは、偉大な化学者の仕事ぶりを遡行しましょう。
 その前に、論文にも書かれていることですが、サザンカは「茶梅」と書き、ツバキである「山茶」と区別しています。すなわち、「山茶」の花はサザンカではありません。「山茶」の花は椿の花ですから「山茶花」は「サザンカ」と表現する方が間違えありません。

【論文1】 青山新次郎、薬学雑誌30, 454-461 (1930).

言葉の使い方
山茶花の漢字は「サンサカ」の訛りに由来するとされますが(Wikipediaより)、暖地性の山茶(ツバキ)に由来します。青山も論文でサザンカをサザンクワと言い、”sasanqua” に対応する片仮名を用いています。当時の言葉の使い方は、忠実に外国語の’qua’を’クワ’表現して対応をとろうとしていることが知れます。

 元に戻って、この論文の薬学雑誌を詳細に読むと、サザンクワサポニンはサポゲニン(配糖体の糖部分がない脂溶性成分、またはアグリコン)と[3分子のガラクトース+アラビノース]からなる構造を提案しています。当時の実験環境から想像してみると、単離・精製に多大な労力が使われ、精密な元素分析が構造推定の重要な手段となっていました。これらの業績を一つずつトレースすると、論理的説明に研究者の姿勢が思い浮かびます。

 このような青山の研究は40年後に山田哲也・青木博夫・並木満夫によって発展させられました。彼らはクロマトグラフィーを用いた単離精製を行い、サポゲニンの構造研究を行いましたが、構造を決定するには至っていませんでした。
【文献2】 山田哲也、青木博夫、並木満夫、日本農芸化学会誌44, 580-586 (1970).

 同じグループの研究者が1968年にオイゲノール配糖体として論文を出し、Sasanguinの構造とした研究もあります。
【文献3】 T. Yamada, H. Aoki, T. Tamura, Y. Sakamoto, Agr. Biol. Chem., 31, 85-91 (1967).

 さらに、T. Yoshida, Y. Chou, Y. Maruyama, T. Okudaは花の実について、お茶のタンニンと山茶花のタンニンを比較して、両者に類似のガロタンニン(重合性の没食子酸の配糖体)が含まれていることを明らかにしました。
【文献4】 T. Yoshida, Y. Chou, Y. Maruyama, T. Okuda, Chem. Pharm. Bull., 38, 2681-2686 (1990).

 また、1997年に、T. Akihisa, K. Yasukawa, Y. Kimura, S. Takase, S. Yamanouchi, T. Tamuraは、加水分解されない脂質として、27種類を単離しました。サザンカの脂質成分の分布は、ツバキ科に共通したところもありますが、サザンカの主成分がButyrospermol(16.9%), Tirucallol(22.4%), β-Amyrin(24.6%)であることを示しました。これらの化合物は炭素数30の原子骨格をもつトリテルペンであることも明らかになりました。さらに、これらの化合物は、マウスの耳を使った実験結果から、抗炎症作用があることも得ています。
【文献5】 T. Akihisa, K. Yasukawa, Y. Kimura, S. Takase, S. Yamanouchi, T. Tamura, Chem. Pharm. Bull., 45, 2016-2023 (1997).

 同じグループの研究で、サザンカに3環性のトリテルペンであるIsohelianolを単離、構造決定したことも報じられています。この化合物は以前に分かっている4環性のトリテルペンとは異なり新規なものでした。この構造決定にはNMR(核磁気共鳴)のHMBC(異種核相関)の技術が駆使され構造決定謎解きのストーリーがあります。
【文献6】 T. Akihisa, Y. Kimura, K. Koike, T. Shibata, Z. Yoshida, T. Nikaido, T. Tamura, J. Nat. Prod., 61, 409-412 (1998).
【文献7】 T. Akihisa, K. Yasukawa, Y. Kimura, S. Yamanouchi, T. Tamura, Phytochemistry, 48, 301-305 (1998).
【文献8】 T. Akihisa, K. Arai, Y. Kimura, K. Koike, W. C. M. C. Kokke, T. Shibata, T. Nikaido, J. Nat. Prod., 62, 265-268 (1999).
【文献9】 T. Akihisa, K. Koike, Y. Kimura, N. Sashida, T. Matsumoto, M. Ukiya, T. Nikaido, Lipids, 34, 1151-1157 (1999).

 最近、H-P. Chen, M. He, Q-R. Huang, D. Liu, M. Huangはサザンカサポニンに酸化的ストレス防御作用があることを示しました。文献調べてわかったことに、最近のサザンカ研究は中国において盛んに行われています。思うに、サザンカは漢方薬にも使われていることに関係していることも理由かも知れません。また、構造研究の先にある生理活性の研究が中心となっています。
【文献10】 H-P. Chen, M. He, Q-R. Huang, D. Liu, M. Huang, Eur. J. Pharmacol., 575, 21-27 (2007).
【文献11】 Z. Liao, D. Yin, W. Wang, G. Zeng, D. Liu H. Chen, Q. Huang, M. He, Phytother. Res., 23, 1146-1153 (2009).

エピローグ
 サザンカの実はと類縁のツバキの実と似ています。サザンカ油を調べたところ、純粋なサザンカ油は見当たらず、ほとんどがツバキ油との混合物であったり、ツバキ油そのものであったりします。それではツバキ油を見てみましょう。ツバキの実には油が多く、昔から椿油として、頭髪の整髪料として使われていることは知られています。椿油は単にトリグリセリド(脂肪酸にはオレイン酸が多い)だけと思われますが、少量含まれているサポニンやタンニンがあり、これらの成分にはあまり注目されてきません。改めて、植物の油脂成分の多様性を知ると、古から用いられてきた椿油の意義を再考し、新しい利用法もありそうです。(椿油は食用ともなります)
個人的には、どんな整髪料よりも椿油は髪の艶、しっとり感など優れていますので、使うことがあります。ただ、油の粘りがあるためさらさら感は望めません。
タグ:樹木
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:学問

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

ナンテンツバキ ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。