SSブログ

柿の蔕(へた) [樹木]

富有柿の糸貫

091102
岐阜県瑞穂市居倉~糸貫(いとぬき)は富有柿(ふゆうがき)の日本の原産地です。この頃、道端には沢山の店が並び富有柿の販売をしています。富有柿の名前は各地で使われていますが、ここ居倉が発祥の地であることは余り知られていません。謂れについて、下記の調査が岐阜県から発行されています。それをご参照ください。
http://www.pref.gifu.lg.jp/pref/s11423/fukurokakeyurai.pdf

富有柿は11月半ばから出荷される柿ですが、すでに早生が出ています。糸貫の柿の生育については、揖斐川(いびがわ)の水と上流から運ばれてくる栄養分が土地(粘質)にしみこんでいることが大切な環境条件となっています。同じ地域でももう少し下流の瑞穂(みずほ)市中心の産物とは味が違うと聞きました。もちろん、味だけでなく、値段も異なります。

sPICT0055.jpg
sPICT0061.jpg

柿には甘柿、半甘柿、渋柿がありますが、富有柿は初めから甘い甘柿に属します。柿は水溶性のポリフェノール配糖体を含み渋くなりますが、フェノールの重合によって不溶化すると、遊離した糖が蓄積して甘くなります。特に渋柿を甘くするにはこの分解と重合を進める訳ですが、寒風に晒して乾燥と分解、重合をします。この作用は漆の重合によって漆器製作するのと似たところがあります。どちらも、いにしえからの伝統知になるわけです。

sPICT0060.jpg

柿の蔕(へた)はシャックリを止める漢方薬です。また、蔕の服用は血圧を下げるとも書かれていますが、ポリフェノールやタンニンの効用によるものでしょう。このような柿の効用の研究は東洋人が多く行っています。

【追記091103】
柿の実には多くの糖が含まれますが、それ以外に、葉まで含めて、オレアノール酸、ウルソール酸、ベツリン酸などのトリテルペンが含まれています。
トリテルペンというのは炭素原子数30で炭素数5のイソプレンの骨格を部分的に6単位を有する化合物です。多くの植物がその生育のために産生する有機化合物です。あるときには昆虫に食べられないため、他の植物が育たないため、昆虫に花粉を運ばすためなど、植物の武器になったりします。

triterpene1.jpg

これらの成分は種々の薬効を示すことが知られています。製品として、柿の葉のお茶や柿蔕の漢方薬などが良く知られています。

・池田らによって柿の甘渋の遺伝研究があります。甘柿と渋柿の見分け方になります。
池田、山田、栗原、西田、園学雑54, 39-45 (1985). 日本語

・タバコ葉につく幼虫の摂食作用阻害をこれらの酸が示すことの報告もあります。一般化はされていませんので、どの虫に効くかはこれだけではわかりません。
U. V. Mallavadhani, A. Mahapatra, S. S. Raja, C. Manjula, J. Agric. Food Chem., 51, 1952-1955 (2003).

・また、これらのトリテルペンがチロシンのリン酸化を阻害することが明らかにされました。美白などの化粧品への応用に興味がもたれています。
P. T. Thuong, C. H. Lee, T. T. Dao, P. H. Nguyen, W. G. Kim, S. J. Lee, W. K. Oh, J. Nat. Prod., 71, 1775–1778 (2008).

・さらに、インスリンの分泌を促進する作用があることが動物実験で示されました。糖尿病に効くかどうかは不明ですが、更なる研究が待たれるところです。
T. Teodoro, L. Zhang, T. Alexander, J. Yue, M. Vranic, A. Volchuk, FEBS Lett. 582 1375–1380 (2008).

・血管の恒常性維持に有効に働く報告もあります。この論文では高血圧の正常化に働く可能性を示唆しています。
J. Martı´nez-Gonza´ lez, R. Rodrı´guez-Rodrı´guez, M. Gonza´ lez-Dı´ez, C. Rodrı´guez, M. Dolores Herrera, V. Ruiz-Gutierrez, L. Badimon, J. Nutr., 138, 443–448, (2008).

・抗掻痒剤としての利用も考えられる報告もあります。ジフェンドラミンとの比較がありますが、それを凌駕するものではありません。
H. Matsuda, Y. Dai, Y. Ido, T. Murakami, H. Matsuda, M. Yoshikawa, M. Kubo, Biol. Pharm. Bull., 21, 1231-1233 (1998).

その他、溶血作用阻害、すなわち、止血作用の報告もあります。

これらの化学研究の原点を調べますと、伊勢田駿と柳下一愛が1955年に薬学雑誌(75,230-231)に報告しています。後に、水野瑞夫先生によって、1971年に同じく薬学雑誌に構造が検討されています。(91, 905-906).当時、水野先生は岐阜薬科大学の先生で、地元の富有柿をテーマにご研究されたことのようです。両論文とも日本語です。
つまり、柿に対する日本人の研究は世界的にも独自性を持っていました。

柿を食べると、「法隆寺の鐘」と条件反射する傍ら、調査する中で、日本人の研究者が伝統を先端化学へと導いた足跡を味わうこともできました。一般に、「柿が赤くなると医者が青くなる」という講釈をつけることがあります。しかし柿を食べる意味はもっと深いところにありそうです。近頃、これらのトリテルペンがガン細胞のアポトーシスを増長するが、正常細胞には働かないというWEBもあります。すなわち、ガン細胞は破壊するが正常細胞は壊れないという意味です。(この記述はWEBだけで文献を手にすることができませんでした) なお、最近の研究論文を見てみますと、中国のものが多く、盛んですが、中国語で書かれた文献が多く、英語論文のように国際的に認知される報告であれば、広く認知されると思われます。この点、残念と言わざるを得ません。嘗て、日本語で書かれた立派な研究を見てきましたが、世界では陽の目を見ないことを経験してきました。前轍を踏むことだけをさけることはできないだろうかと思っています。
タグ:
nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:資格・学び

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

キンモクセイナンテン ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。