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イチョウ [樹木]

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上日寺(氷見)国指定天然記念物(雌株)

春は桜で忙しい、秋は紅葉で忙しい。 樹木を見るにはふさわしい時候がある。


桜は午前、イチョウは午後、それぞれ一番美しい時刻と思っています。
例えばイチョウについて、

「金色の小さな鳥の形してイチョウ散るなり夕日の丘に」

といわれるように、はらはらと落ちるイチョウの葉が夕日に染まりながら落葉する姿を、小学校教科書に出ている与謝野晶子の句は表しています。イチョウには晩秋の夕刻、晴れた日でやはり夕日がふさわしい。

情感はともかくとして、イチョウは不思議な木です。先ず、葉が変わった形をしています。似た形にアヒルの足跡、三味線のバチ、など言われますが、中には実を纏った葉もあります。木全体としても内枝が張って木登りには向いていない形をしています。日が当たりすぎると、葉は枝の途中から直接出てきます。枝を張る必要がないとイチョウが思うためでしょうか。

また、イチョウは雌雄異株で、街路樹に使われるほど、結構丈夫な木です。さらに、刈り込んでも大丈夫ということで管理がし易いことのためでしょう。ただ、雌株は、秋には銀杏の臭いと忌避されるので、雄株が好まれますが、苗の段階で雌雄が分かるはずがないので、雄株を接木するのが一般です。

どのイチョウを見ても皆同じものばかりと気がつきます。太古には17種類あったのですが(化石から)、現存は1種類で属を占めます。つまり生き残り1種です。原産地は中国であり、日本に現存するものは中国から波及したことになります。例えば、日本へ白鳳時代に伝わったと上日寺に書かれているイチョウは1200年前ごろになりかなり古いものです。万が一、樹齢2000年というものがあればそれはおかしなことになります。

さて、木の幹を見てみましょう。気根は円錐状に樹皮に垂れ下がっています。これは若い木にはありません。木の枝の張り具合を見てみますと雌株の方が大きく、雄株の方は背が高く伸びます。日本には雄株が多くあります。特に青森県にはイチョウの樹齢1000年の古木が多く見られます。

イチョウの化学成分は天然有機化学の対象となり、日本人が構造決定した歴史があります。イチョウの葉にはGinkgolic AcidやGinkgolideの化合物が含まれています。その構造式をそれぞれ下に示します。

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イチョウには虫が付かないので、すくすく育つように見えます。しかし、ニセビロウドカミキリのような虫はイチョウを食べる悪食です。なぜ耐性を獲得したのか未だに分かりません。不思議なものです。
カミキリ図鑑:
http://www2.gol.com/users/nanacorp/ZUKAN/0kensaku-menu.htm

イチョウの葉のお茶は健康食品として市販されています。海草を研究しておられる、ある先生がイチョウに興味をもたれ、イチョウ茶を飲むと夜中に目を覚まさずに熟睡できると話をされていました。あるとき、ふとテレビを見ているとその先生が出ておられ、その効用とイチョウについて色々と語っておられました。研究者というのは少し畑が違っていてもよく研究されるものだと感心させられました。
また、血小板活性化因子(PAFという)は傷をすると止血のときにPAFが働き血小板が凝固する。逆にこの作用が大きいと血栓を起こすので、血液凝固を阻害物質が必要となります。そこで、イチョウエキスは血液凝固防止に有効に働くという実験は何報もあります。つまり、よく研究されています。酒飲みが最後に銀杏の焙烙焼きを食べることが食習慣としてありますが、意味のあることと思われます。また、アルツハイマー症の軽減化にも働くという研究論文もかなりあります。

しかし、良いことばかりではありません。イチョウ抽出物はビタミンB6(VB6)を破壊します。このためVB6の不足による障害も報告されています。さらに、イチョウ茶を大量に取ると溶血作用があるため、安全基準として5ppm以下に設定されています。

面白いことに、銀杏のあの悪臭は酪酸とヘプタン酸によることがわかっていますが、人だけでなく、サル、タヌキは忌避します。ところが、アライグマはそれを示しません。何とも不思議なことです。

成分構造式を見ると、化学的関連したことがあります。Ginkgolic Acidはイチョウだけでなく、漆やカシューにもそれと近いまたはそのものが含まれています。銀杏に被れる人は漆やカシュー油に被れる確率が高いと思われます。でも漆に被れても、銀杏やカシューナッツは食べても大丈夫だという人を複数知っています。化学構造が同じや近いからといっても、必ずしも被れるとは限りません。しかし、短絡的な結論を言えませんが、一つのアレルギーを持っている人は気をつけた方が良いでしょう。化学構造に戻ると、一連の化合物はアナカルド酸(サリチル酸誘導体)を含むことで知られています。このアナカルド酸は抗菌作用が強く、例えば、MRSAやVREのいわゆる耐性菌に対しても抗菌作用を示します。不思議なことに抗菌作用と並行して、抗酸化作用を示します。すなわち、チロシナーゼやリポキシゲナーゼなどの酸化酵素の阻害剤になります。表面的には化粧品としての展開が期待されますが、アレルギー症状が出る可能性があります。

イチョウの天然物化合物研究は、Ginkgolideの構造決定で文化勲章受章者の中西香爾教授を挙げることができます。この構造は加水分解を非常に受けにくく、ラクトン(環状エステル)を3つ含む構造と決定されています。先生がイチョウの研究を始められたのは東北大学の建物の横にあったイチョウの木が伐採されたものを研究室に持ち込み抽出、単離、構造決定されたと聞きました。最近先生が書かれた書物に構造決定と生理作用について書かれたものがあり、その別刷りにサインをもらいました。(私の趣味)

上日寺のイチョウ
http://www.jaist.ac.jp/ms/labs/ttl/KT/shashin/tennenkinenbutu/jounichiji/jounichiji.html

飛騨国分寺はフォトをご覧になれます。
http://pht.so-net.ne.jp/photo/usuzumi/albums/165323
http://www.jaist.ac.jp/ms/labs/ttl/KT/shashin/tennenkinenbutu/kokubunji/kokubunji.html

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蓼と生体 [観察]

蓼の不思議

090612「庭の蓼を見てご覧」といわれて、見ると一緒に植えてある青紫蘇の葉が青虫に食われているものと食われていないものがあった。
蓼は5年前に休耕田のところにあったものを許可を得て戴いた。この休耕田は南に小高い山があり北側が開けている場所であった。「来年は耕すから、今ならいいよ」と言われた。日差しの関係で植物が育ちやすいものと育ち難いものがある。この場所は蓼にとって絶好の生育場所となっている。持って帰ってベランダのプランターで適当に散水する程度だが、二、三年で、プランターが一杯になるほどになった。今年は庭において青紫蘇と一緒に植えてある。
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青紫蘇と蓼の共生は面白いかもしれない。しかし、青紫蘇を食する青虫は蓼を食べないようである。蓼とは少し離れたところの青紫蘇はかなり食されていた。よく見てみると、一緒に植わっているところでも、青紫蘇が背が高くなるとその葉が食われている。蓼に含まれる辛味成分が青虫の摂食作用を阻害すると言う説明でなんとなく納得してきたが、青虫は蓼であろうが青紫蘇であろうが片っ端から齧っている訳ではない。青虫がもっと感度の高い検知器をもっているか、蓼が別の警告物質を放っているか疑問が出てくるが分からない。また、報告を見つけることができなかった。
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日本にある蓼の種類は100近くあるが、アカマンマや蕎麦は辛味はないが蓼の一種である。ヤナギタデはホンタデとかマタデといわれ鮎料理に蓼酢として使われてきている。これは川魚のもつ寄生虫による害を防ぎ、殺菌作用を示す蓼の効用を利用したものと知られている。院内感染で問題となったMRSAに対して、抗菌作用を示すことが報告されている。このような作用を示す主成分はポリゴジアールである。構造式に示されるように、2つのアルデヒド基を持つセスキテルペンである。同じような構造を持つWarburganalも強い抗菌作用を示す。
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ポリゴジアールとEDTAの組み合わせは面白い抗カビ作用を示す。高濃度で作用するEDTAはポリゴジアールを添加することによって、10倍以上に上げる事ができる。いわゆる相乗効果は少ない薬を用いて副作用を回避しながら同等以上の薬効を得る、副作用回避の戦略の一つとなっている。ポリゴジアールは細胞の表面に穴を開けEDTAが細胞内に入り込むのを手助けする機構が考えられている。

ニュージーランドではHoropitoという蓼があり、ヤナギタデより多いポリゴジアールをもつ。ポリゴジアールの抗カビ作用はCandidaにも効く。カンディダは肺の中へ入ると抗カビ作用を示す薬は少なく死にいたる確率がエイズ患者には多い。このことに目を付けたKolorex社はポリゴジアールを商売としている。

殺菌作用や抗カビ作用を示すポリゴジアールであるが、良いことばかりではない。ポリゴジアールは溶血作用を示すために注射薬には使えない。
また、最近の報告によると、ポリゴジアールは神経細胞のグルタミン酸受容を阻害すると同時に細胞内のグルタミン酸を放出するという。このようなことはカプサイシンで見られるものと同じであり、臨床的な使用に警告している。
Neuropharmacology 46 (2004) 590–597.

また、辛味の常習性によって細胞の反応が遅くなる実験結果もある。これは辛味の刺激性(炎症)があれば対応する反応であるのでポリゴジアールに特異性がない。確かに刺激に対するトレランス(慣れ)が働くところに別の蛋白質が関与することもある。化合物の特殊性と一般性・共通性にまだ何か別の因子があるように思えるが、調べた範囲では研究を見つけることができなかった。分かっていることでありながら一歩踏み込むと何も分かっていないことや全然別のことを考えたほうがよい場合もある。神経細胞というのは不思議なものです。

ただ、内藤記念くすり博物館にこんなものがあった。健康によいからと言って、大量に摂取したり、常用したりすることに警鐘を鳴らしている文がある。貝原益軒の養生訓がある。何でも安易に薬に頼りたがる風潮に出くわす機会がたまたま多い。所詮、自己治癒を補助する薬の利用を考えていた江戸の人は何か違う。医療の発達した現代とは異なり、不思議なことである。
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【追記】 あの辛い蓼を汁にしたタデ汁を一度食したく思っている。もう6年前に三河湾にある佐久島からタデ汁をNHKが紹介したという030810。日本テレビのズームイン朝で川満聡さんによってその紹介があった030913。そのときには地元のおばあさんが出てきて、タデを擂って白いご飯にかけ水か湯かをかけて食べる素朴なものだった。島ではこのおばあさん一人が家でタデを栽培していると報道されていた。最近は島おこしで魚の汁が入ったものを500円で売られているらしい。これはこれで美味しそうである。山葵、辛子、唐辛子などとは違った辛さは風味という文化を感じる。昔の人がどのような理由で食材を使っていたのか考えるだけでも楽しい。それがグルメとかグルモンといわれようが。 さて、藍染の藍もタデ科の植物であるが、これについてはまた別の機会に書こう。これまで。
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毒蝶と擬態 [観察]

毒蝶

人間というのは「」という言葉を聞くと、どんな危害を我々に加えるのか、それを早く駆除しなければいけない、と考えてしまう。つまり、自然に対してエゴな所を持っています。そのエゴがエコを語るのですから、もっとよく自然を理解しなければ本当のことは分からないことになります。こんな説教を聞かされる前に、「自然というのは不思議だと思えることが沢山ある」ともっと観察してみましょう。疑問に思ったこと一つずつどこまで分かっているのか調べ、その先を想像すると、新しい世界を見つける切っ掛けになるかもしれません。

090723曇り空で詰まらなかった日食の次の日、出かける前に庭に、珍しい蝶がいるのに気付いた。
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帰宅後、図鑑とWEBで調べたところ、ツマグロヒョウモンであることがわかった。この蝶は一見カバマダラという毒蝶に似ている。20年ほど前に家族でカリフォルニアのモントレーへ行ったときに、蝶のなる木を見た。この蝶はオオカバマダラというよく似た種であるが、メキシコからカナダの南まで2千キロを渡る「渡り蝶」である。渡っている途中で鳥などの餌食にならないように体にピロリチジンというアルカロイド系の毒を持っている。鳥にとってこの蝶を食すると戻したり、体がおかしくなるのであろう。この鳥だけでなく、それを見ていた仲間も学習が働くので、少数の犠牲の下で種は保存される。この蝶はどうしてこの毒を獲得するのか調べられた結果は幼虫期にガガイモの中にあるアルカロイドを食し、体内に保有するためである。ガガイモは昆虫に食されない防衛物質としてアルカロイドを作り出すが、ちゃっかりとオオカバマダラはこの毒に対する防衛能力を持ち(おそらく、レセプター蛋白質の不活性化による)食料の独占化を得ているのであろう。ガガイモにとってオオカバマダラは片利共生となるが、植物の戦略はもう少し複雑であろうと推察される。しかし、先は分かっていない。単純に考えれば、少々の犠牲を払いながら多くの昆虫に受粉を手伝わせているのかもしれない。カバマダラも同様であると想像される。しかし、棲息域は西南諸島であるから、ツマグロヒョウモンのそれとかぶる事は小さい。ここにも疑問が出てくる。ツマグロヒョウモンは無毒であるが、カバマダラと飛び方や色形が似ている。棲息域があまりかぶらないのに擬態を取るのは複雑である。学習は後天的なものであるから、学習遺伝子があるとなると新説である。ひょっとするとツマグロヒョウモンの擬態というのは人間が作ったストーリーなのかも知れない。不思議である。

【追記】090803ツマグロヒョウモンというのは珍しい蝶だと思っていたが、ここでは当たり前の蝶なのかもしれません。というのも出かける昨朝に畑とコンクリートのところ行き来しながら飛来していました。そう思えば庭に水をまいたときにコンクリートのところの水溜りで水を飲んでいました。動物は水を飲むときに無機質の溶けた水を飲むことは聞いていましたが、ツマグロヒョウモンも花だけでなくコンクリートのところにも飛来するのです。炭酸ガスが多く水に含まれる現代環境では酸性化し、コンクリートのような無機物をわずかですが溶解して蝶に供給しているというバランスは不思議なものです。

もう一つ、同じ日に090723出かけた薬草園でジャコウアゲハを見た。
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この蝶はウマノスズクサという毒草に卵を産み付ける。この毒はニトロフェナントレン誘導体とイノシトール誘導体の2種の化合物が同定されている。ジャコウアゲハにはこの毒を利用して鳥の餌食になることから防御しているという生態はカバマダラと同じである。これにもちゃっかり者がいて、それがアゲハモドキという蛾である。ちょっと見には区別ができない。蛾と蝶との差異は触角にあると、同じ日に行った名和昆虫博物館にクイズに出されていた。本当に図鑑で調べるとジャコウアゲハの触角は先が丸いが、アゲハモドキの触角は毛の先のようになっている。擬態というのは深い話である。ジャコウアゲハの棲息域は南の方であるが、アゲハモドキのそれは東北地方まで認められている。かぶることはあるものの、どうして北の方まで擬態が有効なのか、不思議である。何かほかに理由があるのだろうが、まだ分かっていない。
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