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青いアサガオ [草花]

アサガオの色

091004
赤いそば畑の近くに、日本風景支援事業によって「青いアサガオ」が田圃に栽培されていました。もう10月に入ったのに、夏の風物詩のアサガオが咲いていました。アサガオの開花時期は6月から10月と書かれていましたので、今年のラストチャンスなのかも知れません。ここへ来たのは16時30分ごろでしたので、本来なら、萎んだ後が見られる程度でしょう。しかし、田一面に咲いていました。では夕顔でないのかと思いましたが、よく見るとアサガオでした。アサガオの開花時刻は夕日が落ちたときから10時間後に開花すると聞いていましたので、この時間に見ることができるのは、朝日が出て10時間後に開花したことになり、アサガオが夕日と朝日を勘違いをしたのではと推測したくなります。一般に花の開花などの形態形成にはフィトクロム(Phytochrome)という色素タンパク質の赤色光(660nm)、遠赤色光(730nm、近赤線)の可逆的な変化で制御され、時間を認識する生物学として研究もされています。小学校の夏休みの宿題を8月の終わりに、あわてて、アサガオの開花の観察をしようとして朝早く起きたのに、もうすでに花が咲いていた。7月には咲くところが見られたのになぜなのか、疑問に感じたことがありました。日の出とともに朝顔が咲くというのは間違った考え方だったのでした。
先ず、夕刻に見た青いアサガオの写真をご覧下さい。その後、ノーベル賞受賞者に反論した日本人化学者の研究を紹介します。

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ところで、この青色はどんな色素でしょうか? 
一般に、花の色は、色素成分によって、大きく4種類に分けることができます。

・カロテノイド系 黄、橙、赤橙      主に、C,Hからなる化合物で、βカロテンは知られている
・フラボノイド系 白、黄、赤橙、赤紫  ポリフェノール類に代表される
・ベタレイン系  赤、黄          窒素原子を含む色素
・クロロフィル系 緑            葉に含まれるポルフィリン化合物として知られている

アサガオの色素はフラボノイド系のアントシアニンです。小学校のときにアサガオの花の汁をとって、酸性(赤)にしたり、アルカリ性(青)にしたことを思い出します。確かにアントシアニンの色はpHによって変わります。下の構造式の左はアルカリ性、右は酸性の状態での化学式で表せます。このことで分かることは、色はアントシアニンだけ決まるのではなく、pHのような環境や状態によって変わってくることです。pHと聞いて、ひょっとしてリトマス試験紙を思い出しませんか?リトマス苔からとった化合物はアントシアニンではありませんが、原理(反応式)は同じです。すなわち、酸性か、アルカリ性かで赤になったり青になったりします。それでは、プロトン(水素イオンのこと)の付加だけによって、花の色は決まるのでしょうか?

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植物の細胞の中がそんなにアルカリ性になるわけでないという科学者の常識が働きます。ここで、pHだけでは決まらない例が見つかりました。この命題に取り組んだのは日本人の研究者です。現在では、アントシアニンの色を決める化学的な因子は、3つまたは4つの説としてまとめられます。

1.pH説      R. M. Willstaetterによって、酸性では赤、アルカリ性では青を一般に呈する。
2.金属錯体説  柴田桂太によって金属の配位結合が重要であると反論した。
3.コピグメント説 ロビンソンらが無色の助色素がアントシアン類と複合体を作ると提唱した。
4.分子会合説  アントシアニン同士または他の分子とアントシアニンが会合して青くなる。

R. M. Willstaetterは1915年にノーベル化学賞を受賞しているのですが、そのpH説に柴田先生は反論したのです。権威や有名に従順な世界を相手に、研究を進められたのですが、当時、国際舞台では、この反論に注目する人は極めて少なかったのです。しかし、その後多くのところで実証されました。

元々、アサガオの原種は青色です。赤やその他の色は突然変異で生じたものを育成したものです。上古田(箕輪)の青いアサガオは南米産の「heavenly blue」と書かれていましたので原種に相当します。それでは多く見かける赤いアサガオは、突然変異で生じたものですが、遺伝子レベルで区別できるかという命題が出てきます。

アサガオの遺伝子解析をすると、どのような種類と色があるか、今では体系付けられています。その詳しい研究はなされており、分かり易い解説(少し専門用語が入っていますが)が下記のWEBにあります。結果を見ると遺伝子が色を決めているように思えますが、論理的には色に関する遺伝子を調べた結果、原種との差異が現れたことになります。
http://www.bsj.or.jp/topics/03/asagao.html

ここで、日本人の花の色に関する研究を見てみましょう。柴田先生の研究の後、林先生他、多くの研究者が、pH説以外に色を決定する結果を示してきました。特に際立った、アサガオの花の色の研究に、名古屋大学におられた後藤俊夫先生の研究論文があります。
T. Goto, T. Kondo, H. Imagawa, S. Takase, M. Atobe, and I. Miura, Chem. Lett., 883-886 (1981).
その結果、アントシアニン分子は配糖体であることを示されました。アントシアニンの3位と5位に2糖と1糖がそれぞれついている構造でした。アントシアニンと思われた物質はいずれのpH状態でも水溶性ですから、水溶性の糖が付いている構造は納得のいくものです。

後ほど、ロビンソン、斎藤らはカフェ酸が結合していることを明らかにしました。つまり、助色団であるカフェ酸がアントシアニンと錯体を形成することで色を呈するのです。
Lu, T.S., Saito, N., Yokoi, M., Shigihara, A., Honda, T., Phytochemistry, 30, 2387–2390 (1991).

このように、花の色の化学研究はかなり日本において数多くなされてきました。さらに、最近、青色色素について、アントシアニンとフラボンが6個ずつ、鉄1個、マグネシウム1個、カルシウム2個で構成された会合体であることが、X-線解析(Spring8)で明らかになりました。
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M. Shiono, N. Matsugaki and K. Takeda, Nature, 436, 791 (2005).

この結果、1~3の説は一つの切り口をそれぞれ与えているが、総合的にはX線構造解析で決着したように思えます。

以上のように、これらの日本人の研究は世界的な先導性を有してきましたが、後藤先生が始められたときから、28年が経ち、3,4世代にわたる研究者の地道な研究とそれを国民の寛容と理解が支えた賜物であることを再確認したいものです。また、これらの研究を側面支援するのは、約13年毎に詳しい構造が解明され、色に関する詳細な機構解明に大きく寄与したのが分析機器の発展です。研究者が絶えず最新機器に敏感であるのは「何とか構造を決めたい」という意欲に他なりません。高額な機器の購入を支援するのも国民であることを思うと、科学は、その国の文化に対する取り組みを象徴すると言って過言ではありません。

美しいアサガオの花を見ると、形や色と、開花という流れにも、美しさがあります。それ以上に、分子という小さな世界でも、美しい分子構造の形が現れてきます。このような自然美は他にもあるでしょう。そして、直接目では見えないところにも数多くの小さな美が創出される可能性を感じます。自然とは不思議なものです。

【追記091015】
近くの家の前庭に、今、アサガオが咲いています。このアサガオも青色です。

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